上手な説明の仕方 言葉の曖昧さを使い分ける

日頃私が気をつけている、説明の仕方を書いてみます。
言葉は様々な意味合い・幅を持つため、使い方によって曖昧になります。
私は言葉が揺らぐと表現しています。人々はどの『意味』で話しているのか言葉のもつ『意味』の曖昧さ・揺らぎの中からを頭の中で無意識のうちに、特定の『意味』を確定させながら話しています。話し方により『意味』の特定が難しいとよくわからない説明になります。あまりに無意識にその作業を行っているため、話し手も聞き手も言葉の曖昧さを意識していない場合すらあります。言葉の持つ曖昧さ・揺らぎを意識していないと、知っている言葉を聞いているだけなのに『意味』がわからないということがありえるのです。

例えば言葉の曖昧さ・揺らぎの一例を説明してみます。
『お酒を飲んではいけません』と言ったとします。『わかりました』と答えたとします。『お酒』には言葉の曖昧さがあります。アルコールという『意味』と日本酒という『意味』です。
話し手も聞き手もどちらの『意味』で『お酒』と言っているか確認していないので、本当の『意味』の組み合わせは4通りあるのです。話し手が『アルコール』と『日本酒』、聞き手が『アルコール』と『日本酒』の組み合わせが4通りです。話し手と聞き手の『意味』が『アルコール』同士や『日本酒』同士揃っていれば、どちらの『意味』でも問題ありません。片や『アルコール』の『意味』で使っているのに『日本酒』の『意味』で聞いていると、話している内容がズレてしまうのです。

『お酒を飲んではいけません』には、日本酒は飲んではいけませんかもしれませんし、アルコール全て飲んではいけませんかもしれないのです。人々は前後の文脈からどちらの『意味』か聞き分けているのです。聴きわける知恵のある人にしか『意味』がキチンと伝わらない可能性があるのです。この話し方では聞き手の『意味』を聴きわける能力によって『意味』が伝わるか伝わらないかが決まるのです。

ここで厄介なのは『お酒』という言葉は日本酒に決まっていると思い込んでいる人もいれば、『お酒』という言葉はアルコールを指すに決まっていると思い込んでいる人が混在していることです。どちらも常識として『お酒』を『日本酒』あるいは『アルコール』と考えています。つまり共通認識である常識だと思い込んでいるので、わざわざ『お酒』という言葉の『意味』を確認したり使い分けたりしません。『お酒』という言葉が持つ言葉の曖昧さを知らない人は、相手が話を理解出来なく混乱していても、相手が理解出来ない『意味』自体がわからないのです。何故なら自分の言葉が曖昧だとは思いもせず、言葉を使い分けていると思い込んでいるからです。2つの違いを知らないので、知らないことを明確に使い分けることが出来ません。だから聞き手は話の『意味』が曖昧でモヤっとした印象を持ちます。
『お酒』というありふれた言葉でさえ、これだけ曖昧さを持っています。ましてや言葉は数多あり、その『意味』の組み合わせは無数にあると言っても過言ではありません。逆に無数の『意味』から文脈に沿って無意識のうちに『意味』を拾うことが出来るので、人々は自然に会話が出来るのです。今回はお酒という言葉を例にしましたが、同音異義語などは前後の文脈から1つの『意味』に特定されていきます。多少ズレて聞こえたり、聴き漏らしたりしても前後の文脈から類推しているのです。この前後の文脈からの判断が出来ないので、機械による音声認識が苦労するのです(最近では前後の文脈も把握しているみたいですが)。外国語がなかなか理解出来ないのは、日本語のように日頃使い慣れた文脈だけでなく対応する外国語の音が頭にないので補うことが出来ないからです。言葉を聞いてその音から頭の中で文字に起こす作業に手間取るのです。

いくつもの『意味』を持つ言葉は、明確に使い分けることが相手の頭を使わせない上手な説明だと思います。『お酒』という言葉を話の中で使って、相手が怪訝そうな顔をしていれば『日本酒』という『意味』か、『アルコール』という『意味』か混乱しているのです。相手の顔を見て、混乱をかき消してあげるように、『日本酒』とか『アルコール』と言い換えてあげることで、言葉の曖昧さをかき消し言葉の揺らぎを止めることが出来ます。次からは最初から『お酒』という言葉を使わず、『日本酒』、『アルコール』と使い分けることが相手の負担を軽減する上手な説明の仕方だと私は思います。

実際には曖昧さを避ける話し方は、上手な話し方の訳ではなく、思いやりのある説明だと思います。何故ならこちらが誤解を招きにくい話し方をすることで、相手が素早く理解する手助けを出来るからです。実際には私は思いやりでも何でもなく、自分のために言葉の曖昧さ・揺らぎは極力避けて話すようにしています。最初から言葉の曖昧さ・揺らぎを排除して話している方が、相手の理解を得やすいので時間を短縮出来る分自分も得なのです。

言い換えると言葉の曖昧さを避ける話し方は、相手の理解する能力に頼らない説明の仕方だと言えるかもしれません。相手によって受け取る『意味』が異なる説明は、説明になっていないとすら私は思います。言葉の曖昧さを理解して、誤解を招きにくい話し方を心がけましょう。

投稿者:

呉からの風

呉の医師です。 糖質回避教の推奨者です。 様々な分野で気づいたことを掲載していきます。 怒る必要のない子育てを掲載予定です。