傷口の消毒 治療の入り口を間違っていた

最近では常識を打ち破ってくれた夏井先生のおかげで、多くの医師が傷口の消毒をしなくなっています。
そもそも傷口の消毒は、ある発見から生まれました。戦時中に即死を免れたにも関わらず、しばらく経ってから全身状態が悪化し亡くなる方が多いことが問題となっていました。怪我をきっかけとして亡くなる方が多く、その原因検索から感染症の概念が発見されました。傷口に細菌が増えていることがわかったのです。その細菌を減らすために傷口の消毒という治療法が考案されました。
入り口を間違えたのは
  • 傷口には細菌が多い
  • 怪我人が死ぬのは細菌のせい
  • 細菌を殺さなければいけない
  • 細菌を殺すことの出来る武器で消毒しよう
傷口の細菌感染で人が死ぬのなら、傷口の殺菌をすれば良いと考えたのでしょう。戦時中のことですから敵=殺すしかない!と考えたこともやむを得ないことだったと思います。実際には生体での厳密な殺菌は困難なため、人体に影響の少ない消毒薬が探し出されました。
現実には細菌感染により細菌は増えていますが、様々な条件が整った結果を見ているそうです。確かに傷口で細菌が増えることは体に悪影響を与えますから、避けなければいけません。増えて問題なら殺そうと言う、今考えれば間違った入り口に迷入してしまったのです。
いわば部屋にコバエが発生したから大変、殺虫剤で殺そうとなったのです。コバエの発生したゴミをそのままにコバエを殺しても意味がありません。何度でもコバエはわいてきます。本来はコバエの発生源のゴミを何とかするべきです。
本来の目的は傷口の細菌感染を減らすことであり、細菌の増えた原因への対処を考えるべきでした。細菌の増えた原因とは、滲出液や血液、壊死組織など細菌の餌となるものが傷口には豊富にあることです。きれいな水で洗い流すだけでも、細菌感染の助けとなってしまう滲出液や血液を取り除くことができるそうです。
間違えた入り口を別の角度から考えてみると、細菌が増えるのだから減らすという対症療法を考えたことです。敵がいるから殺せという戦時中の考え方です。細菌が増えて困るので、細菌を増やさないように、細菌が増える要因を阻害するという考え方にたどり着けなかったのです。対症療法か元を断つかの違い、それが入り口を間違えたと表現する違いです。消毒である程度の成果が得られたので、別の入り口(治療法)があるとは想像すらできなかったのです。
現実に傷口の消毒を行うと、救命率が格段に上昇しました。この救命率の上昇が、消毒を正しいものと更に誤解する根拠になってしまったのです。実際には細菌に汚染されていない水で洗い流すことで、細菌の感染の確率を下げることができます。消毒薬である必要はなく、細菌がいない水で洗うことに意味があったのです。細菌に汚染されてない水とは、今では水道水で充分です(夏井先生の本を初めて読んだ際には驚きましたが、実際に試してみて確かに問題は起こりません)。当時の戦場では消毒液で洗い流すと言う事は、細菌に汚染されていない水の確保が難しかったことを考えると最善の方法だったのかも知れません。入り口を間違えたまま、一定の効果があったことが入り口の間違いに気づくきっかけを奪ってしまいました。現在では汚染されていない水道水が簡単に手に入るので、消毒薬でわざわざ傷口を消毒する必要はありません。
そもそも人体に害の少ない消毒薬は体液(血液や滲出液)に触れると失活(殺菌力が無くなること)しますので、傷口の消毒には不向きだそうです。しかも細菌はしぶといので消毒薬では全滅しませんが、体を治そうとする細胞はかなりのダメージを受けます。敵は生き残り、味方は死んでしまう。敵である細菌の手助けをしてしまうことになるのです。結果として敵の武器、敵の手助けとなってしまいます。
実際消毒するのと消毒しないのとでは、消毒する方が治癒までに2倍近い時間がかかります。しかも痛みを伴うのでよいことは一つもありません。夏井先生が絶対消毒するなと言われはじめたゆえんです。
詳しくは(傷はぜったい消毒するな (光文社新書)、夏井睦氏)あるいは夏井先生の新しい創傷治療をご覧ください。
初めて消毒をしない話を聞いた際には、それまでの常識からは考えにくく、正直あり得ないと聞く耳を持ちませんでした(このことがあり得ないとして拒絶しないという常識を打ち破る方法を教えてくれました。)。しかし先輩医師から消毒しない方が早く傷が治ると聞いて半信半疑で消毒をしないことをはじめました。
確かに消毒しないほうが早く傷は治ります。今では傷口の消毒は全く行いません。