実消費と飾り消費

消費、つまりお金を使うことには二つあります。
実消費と飾り消費です。
実消費とは必要最低限の消費を表します。
食事では身体を維持することを目的とした食事のことです。
美味しいとか楽しいということはそぎ落とした、栄養補給としての食事です。
他にも衣食住という言葉がありますが、衣料に関しても人に不快感を与えない程度の最低限の衣服を身にまとうことを表します。住まいに関しても広い狭いに関わらず、雨露がしのげることを表します。

実消費に快適性や楽しみという飾りを施すことで、より魅力的に見える商品になるのです。
飾りをそぎ落としたものが実消費です。

飾り消費には、明確なメリットを生み出すことを含みます。
例えば時間が短縮できる・便利になるなどの明確なメリットを生み出す場合です。
時間短縮は飾りでもありますが、限られた時間を有効に使うという意味では実消費でもあります。飾りの中には実消費と曖昧な部分もあるのです。
例えば東京大阪間を移動することを想像してみてください。
移動するというだけであれば、鈍行列車、自家用車、新幹線、高速バス、飛行機などが考えられます。
移動という観点だけで見れば実消費は鈍行列車や一般道を走っての自家用車での移動を表します。実際には自分の時間価値を考えると、移動時間が長くなることは移動費よりも時間の損失が大きくなるため、現実的な実消費は新幹線、高速バス、飛行機での移動と言い換えることができます。これらの中で飾り消費を表すと、新幹線でいえばグリーン車、高速バスや飛行機での特別席も飾り消費です。移動時間は変わらないにも関わらず、座席の快適性という飾りをお金を払って手に入れるのです。
時間短縮という明確な違いがあれば、それは飾りか実かは人によって違うということがいえます。学生のように時間はたくさんある人にとっては、時間を短縮できることには実消費としての価値が乏しいのです。逆に1分1秒を争うような時間の使い方をしている人にとっては、時間を短縮できることはどんなことをしても手に入れたい実消費といえます。これは人によって時間密度が異なることに起因すると思います。

別の例えを考えてみます。
サービス業を考えてみます。
至れり尽くせりの接客をするのが当たり前の業態として標準となっていると、それが実消費です。しかしある企業が工夫を凝らして飾りをそぎ落とすと実だけが残るため実消費となります。接客することが飾りであることがわかるようになるのです。
そもそも外食自体が飾りではありますが、その議論は別として、外食するとしたらと考えてください。

ステーキを食べることを考えた際、通常は席に座って注文を聞いてもらってステーキが運ばれてきます。これが当たり前でした。少し前まではステーキを食べることに関してはこれが実消費だったのです。飾り消費とは神戸牛や松阪牛などの高級和牛を使ったステーキであったり、ホテルなどの付加価値を表していました。
そんな中でステーキを食べてもらうという実だけを残し、飾りを削ぎ落としたのが『いきなりステーキ』です。いきなりステーキではカウンターでお肉の種類と焼き加減を伝え、焼けたお肉をセルフサービスで自分で席に運び、立ち食いで食べるスタイルです。いきなりステーキが表れたことで、注文を取る、料理を運ぶ、座って食べるということが飾りであることが浮き彫りとなりました。

他の例では様々な分野で俺の株式会社が飾りを削ぎ落とした飲食店を生み出してくれました。
ホームページを拝見する限り、俺のイタリアン、俺のフレンチ、俺のやきとり、俺の割烹など多数の業態で繰り広げられています。
飾りを削ぎ落とすことで実際にイタリアンを食べてもらうのに必要なこと、フレンチを食べてもらうのに必要なことなどそのお店ごとで実だけを残し、飾りを取り除いていくとあの業態に落ち着いたようです。飾りを取り除くことで経費を節減し、食材の質を上げています。回転率をあげることで利益を確保しています。私は俺の株式会社は『利益は企業の為ならず』を実践されている企業ではないかと思います。何故なら、俺の株式会社はスタッフの給料も多く払っているとのことです。スタッフも一定の収入を確保した上でお客さんに美味しいものを数多く提供するという理想を実現するために、運営資金として利益を確保しているように思います(実際には利益を追い求めているのかもしれませんが、少なくともお客さんを喜ばせる方向にぶれがないので、躍進できているのだと思います。)
飾りを徹底的に排除することで、驚異的な値段設定を実現しているようです。
このことからイタリアンやフレンチであっても座って食べるということは飾りであることが証明されました。座って食べるということが贅沢だという価値観を提供してくれたのです。

いきなりステーキや俺の株式会社ができるまで、ステーキは座って食べるもの、イタリアンやフレンチも座ってゆっくり食べるものということが最低限の実消費でした。
飾りを削ぎ落とす業態が表れたことで、接客してもらうことは飾りだったのだと消費者を気づかせてくれたのです。
飾り消費がしたい人は今まで通りステーキハウスやホテルに行ってステーキを食べるでしょうが、ステーキを食べたいだけの人は飾りのないいきなりステーキを選ぶことになるでしょう。イタリアンやフレンチはゆっくり食べるという飾りも必要だと考える人はこれまで通りの業態のお店に行くことでしょう。
飾りはいらないという人は飾りのないお店を選ぶ傾向にあります。

お寿司もどんどん飾りがなくなっていきつつあります。
回転寿司という業態が一般化した現在、通常のお寿司屋さんは雰囲気や高級な食材を楽しむことができるという意味で飾り消費です。
お寿司を食べるということで考えると回転寿司が実消費ですが、回転寿司の中でも注文を店員さんが聞くというのは飾りかもしれません。決まった内容を受けるだけであれば、タッチパネルで充分です。回転寿司と銘打っていますが、すべてタッチパネルの注文で作る回転寿司屋さんも出てきました。

いきなりステーキや俺のフレンチなどの例でわかるように、人は飾りがなくなったことで初めて飾りだったと気づくことがあります。
いずれにしても飾りだと気付くことができるのは比較することで初めて気づくことができます。
消費する際にこれは実消費?飾り消費?と考えるようにしてみると良いかもしれません。
今飾り消費をする余裕があるのか?飾りの意味があるのか?を考えてみるとよいのかもしれません。
先日書いた『お金の貯まる人とお金の貯まらない人の違い』で書いた違い、持っているお金によって買うものが変わる人の場合お金が貯まらない傾向にありますが、買うものは飾り消費をしている傾向にあります。言い換えるとお金の貯まる人は実消費、お金の貯まらない人は飾り消費をしているのではないでしょうか?
飾り消費をなくしていくだけでお金の使い方が変わってきます。まずは飾り消費を意識することからはじめてみましょう。

次は飾り消費を見栄消費と贅沢消費に分けてみたいと思います。