人の行動を表す考え方に性善説や性悪説という考え方があります。その性善説や性悪説をこえる新しくて古い考え方『損得主義』を提唱したいと思います。そもそも善悪自体が抽象的で相対的な概念であり、多数派が善で少数派を悪と決めているにすぎません。性善説や性悪説に意味がありません。多数派が善だとすれば、人殺しすら善とされてしまいます。その人殺しを善とする結果が戦争なのです。具体的には今では平和な日本でさえも、ほんの数十年前には多くの敵兵を殺すことでほめられていたのです。今でも戦争をしている国では、多くの人を殺すことが善と考えられることでしょう。今の日本人からすれば絶対悪である殺しでさえも、人類全体でみれば善悪がつけられないのです。ましてや人が生まれつき善であるか悪となることがあるのかは一概に言うことは出来ないはずです。自分が多数派の考え方か少数派の考え方かで、他人から善や悪にされるのです。
善悪が一概に言えないのですから性善説や性悪説と分類することに大した意味はありません。人には善の一面もあれば悪の部分も潜んでいるのです。その意味合いでは性悪説の方が人間の本質に近い考え方かもしれません。性悪説は人間の本性が悪であり犯罪を犯すのは当然であるという訳ではありません。
善悪が一概に決められなければ、どのように人の行動を理解するかを考えてみると人は損得により行動すると考えるとわかりやすくなります。
損得主義
誰にでも当てはまる考え方が損得主義です。何故なら人は自分が得する行動は好んで行い、損する行動は避けるからです。この考え方はほとんどの人に当てまります。人だけでなく動物でさえも当てはまります。美味しそうなものがあれば食べますが、叩かれることがわかっていれば食べません。大人はもちろん子供でも叩かれるとわかっていれば食べないでしょう。犬や猫でさえ、叩かれるとわかっていれば食べないでしょう。少なくとも叩かれないように気をつけるはずです。叩かれてでも食べるのか、叩かれないように食べるのを諦めるのか、無意識のうちに損得を考えているのです。知恵が備われば備わる程、先々の損得を考えることが出来るようになります。逆に動物のように先々を考える知恵が無ければ、目先の得に振り回されるのです。
通常人が盗みをしないのは、損得で言えばトータルで損をするからです。捕まれば犯罪者となることはもちろん、これまで積み上げてきた信頼を失うことになるから損なのです。盗みで手に入れる物と、発覚することで失うものともバランスを考えると、盗まない方が大半の人にとってはるかに得なのです。
絶対バレない、発覚しない場合には損得が変わってきます。絶対バレないと思ってももし万が一バレることを考えると、損だと思う人は盗りません。盗られた相手が傷つくことを知っている場合にも、自分が得をするとは思えないので盗りません。
法律の限界
人は損得を考えて行動しています。目先のことしか考えられない人と先々のことを考えることが出来る人がいるだけなのです。損得主義の視点から見ると、法律に限界があることもわかります。法律とは決まりである法を守らなければ、律である罰則を与えることで犯罪を抑止します。罰則を与えられてでも、法を犯して手に入れた方が得だと考える輩が犯罪を犯すのです。
例えば脱税は税金を故意に誤魔化すことですが、見つからなければ丸儲けです。もし見つかったとしても罰金と追徴課税で済むので、損得主義に基づきお得だと考え脱税する者が後を絶たないのです。見つかっても損するのは追徴課税分と犯罪による刑罰です。これらを差し引いてもお得だと考える者は犯罪を犯す方がお得だと考えるのです。刑罰を受けるのが絶対嫌だと考える人達が法律を設計しているのですが、犯罪者が損得を考えるまでは思いもしないのです。もし損得主義に基づき法律を組み直すとすれば、脱税すると損する仕組みにすることです。脱税をして見つかれば損をするのであれば、馬鹿らしくなって誰も脱税等しなくなります。具体的には脱税額は全て没収する仕組みにするのです。更に罰金や追徴課税を課すのです。脱税は故意に誤魔化すのですですから、過失によるものとは明確に区別するべきです。もしかしたら法律を作っている人達が自分も脱税で捕まるかも知れないことを想定して、罰則を手加減しているのかもしれません。
別の視点で損得主義を考えると、土地の立ち退きも理解しやすくなります。立ち退き問題で拗れることが多いのですが、立ち退きに抵抗すればする程金銭的に得をするのです。抵抗すればする程金銭的に得をするのですから、様々な言い訳を考えて立ち退きに抵抗するのです。目的は金銭的に得をすることで、思い入れは言い訳に過ぎません。確かに思い入れがあるため立ち退きしたくない人もいるかも知れませんが、金銭が目的の人達と区別することが出来ません。損得主義の視点からは、立ち退きに抵抗すると損をする仕組みを作るのです。例えば期限までに立ち退きしてもらえたら、時間的なメリットが得られるので余分に支払うのです。逆に期限をこえて立ち退きをしなければ、時間的な損害を生じるので減額していくのです。この損得主義に基づく考え方をすれば、本当に思い入れがある人は金銭的な損失を被ってででも立ち退きに抵抗するでしょう。逆に金銭的な目的で抵抗する人はいなくなるでしょう。何故なら抵抗しても金銭的に損をする仕組みだからです。
利他主義は?
一見すると自分が損するような行動(利他主義)に見えても、自尊心が満たされるとか自己満足出来るなど他人には推し量ることの出来ない得することが潜んでいるのです。他人には理解しにくい得を見つけていると解釈するとわかりやすいかもしれません。
他人にも理解しやすいのは、金銭的な得がある場合です。逆に金銭的にメリットが得られない場合には、他人にメリットがわかりにくいだけで、何らかの得する部分があるのです。
損得主義で読み解く
脱税の話をしましたが、他の犯罪も損得主義で読み解くことが出来ます。普通の人は罰則を受けたくないため犯罪を犯すことはありません。犯罪を犯す人は犯罪を犯す方が得すると考えているのです。
嘘をつくのも損得主義で読み解くことが出来ます。普通の人は嘘をつくと信用を無くすため、嘘をつきません。しかし極一部の人は嘘をつくと得をすることを知ってしまい、平気で嘘をつくことが出来るのです。嘘をつく人がいれば、その人は嘘をつくことで得をしてきたのだと解釈すると良いと思います。
損得主義の活用法
犯罪を抑止するためにはこれまでのように罰則だけでは限界があります。罰則・刑罰を受けてでも犯罪を犯す輩が一定数いるからです。
犯罪を犯した人間がどのように得だと考えたかを聞き出して、犯罪を抑止するのです。見つからないと考えて行動しただけなのかも知れませんし、犯罪で得られる物が大きく罰則が軽いと考えて行動したかも知れないのです。
理解しにくい行動を取る人も、損得主義で読み解くと理解出来る可能性があります。わざとゆっくり仕事する人も実はゆっくり仕事をする方が得なのです。ゆっくり仕事をすることで得をした経験が、再びゆっくり仕事をさせるのです。ゆっくり仕事をしていると周囲の人が痺れを切らして代わりに仕事を片付けてくれるのです。ゆっくり仕事をしても困らない仕組みのため、ゆっくり仕事をする方が得なのです。急いだところで給料が変わるわけでもなく、仕事が終われば次の仕事を言い付けられるだけなのでわざとゆっくり仕事をしてしまうのです。
人の行動にどんなお得が潜んでいるのか考えてみて下さい。人の行動が違った景色で見えるようになるかも知れませんよ。