医師不足が叫ばれています。
その本質は二つにわかれます。
地方の医療のための医師不足と、都会の経営のための医師不足です。
一般的なイメージとしての医師不足は地方における医師不足です。
病院での待ち時間が長い原因の一つが医師の説明スキルの問題です。
医師が適切な説明をすることが出来れば、外来時間や入院患者さんへの説明の時間を短縮することができます。
残念ながら医師が説明スキルを習得する機会は少なく、現実的には先輩医師から学ぶしかありません。多少は学会などが説明の仕方を講義する機会はあっても各病気の説明の仕方に終始しているように思います。少し前にインフォームドコンセントという概念が生まれ、患者さんにきちんと説明した上で同意してもらうことが前提となりました。インフォームドコンセントが始まった際に現場の医師は説明の仕方を学ぶことなくインフォームドコンセントを患者さんに提供することが求められるようになりました。苦肉の策として医師が個人個人で考えてインフォームドコンセントを行うようになりました。説明スキルの高い医師と説明スキルの低い医師が混在しているのが現状です。そして多くの医師は他の医師の説明スキルの違いを比べる機会がないので、自分の説明スキルが高いのか低いのか知らないまま患者さんに説明しているのです。説明スキルが低くても誰も指摘してくれないので気付くことはできません。説明スキルの高い医師は、患者さんが混乱して悩んでいることを感じ取ると説明の仕方を変えることが出来ます。しかしこれも無意識のうちにやっているので、自分が説明スキルが高いとは思っておらず当たり前だと思っています。
説明スキルの高い・低いが垣間見えるのは、患者さんとトラブルになるかどうかです。説明スキルの低い医者はトラブルになることが多く、説明スキルの高い医師はトラブルになることはほとんどありません。何かと患者さんとトラブルになる医者は説明スキルが低い可能性が高いと思います。
説明と同意という点で、インフォームドコンセントの概念が生まれる以前では医師に従うしか選択肢がなかったものが、説明を受けた上で選択できるという点で患者さんに大きなメリットが生まれました。しかし説明のスキルを身につけないまま、選択肢を提供することを求められた医師は提供の仕方がわからないまま手探りで説明をしています。第三者から見れば回りくどい説明を行ったり、的外れな説明を行ったりしていても、医師自身は自分の説明が適切か不適切か知るすべがないのです。自覚のある医者は患者さんが少しでも早くわかる説明を工夫しますが、自覚のない医者は理解出来ない患者さんの問題だと考えています。初めて聞く患者さんにとっては、何を聞いてもよくわからないまま選択をすることになるので、相手の説明スキルの評価などできません。他の医師の説明を聞くことなく選択を迫られるので、比較のしようがないからです。
医師を評価する仕組みは、学会認定の専門医くらいですが、これは専門知識の有無を評価しただけで説明スキルの評価にはなっていないことが現状です。専門医でも説明の下手な人もいますし、専門医でなくても説明の上手な人がいます。患者さんにとっては、説明のスキルの評価ができないので専門医の有無か口コミで判断しているのが現状です。
医師自身も専門医を取得しているから説明スキルが上手だと錯覚している人もいます。
診察時間が長くなる理由
診察時間のうち診断にかかる時間の長短は知識と経験によって異なります。つまりベテラン医師になればなるほど一般的に診断に要する時間は短い傾向があります。
診察時間のうち説明に要する時間の長短は説明スキルによります。医師の説明が適切でなければ、患者さんが即座に理解できず、どういう意味合いかを患者さんから質問・確認することで診察時間が長くなってしまいます。(参考:診察時間の長い医師と短い医師の違い)
具体的な例をあげると、医師は病気の説明をするのですが、専門用語をちりばめて説明することで説明したつもりになっています。治療法も専門用語を使って説明するため、患者さんにとっては外国語か暗号を言われているようなものです。医師にとっては当たり前の専門用語なので、患者さんが言葉を知らないということは微塵も考えることができません。医師は説明したつもりになっていますが、患者さんにとっては外国語か暗号のような初めて聞く専門用語を言われただけで、何もわからない状態に陥ります。何もわからないにも関わらず選択をせまられて、困ってしまうことが多々あります。専門用語が理解できないので、説明自体が理解できるはずもありません。医師は専門用語がわからないから質問したり意味を確認しているとは思いもしないため、会話がかみ合いません。この会話がかみ合わないことで診察時間が長くなってしまうのです。
説明とは相手の知識量に合わせて調整しながら行うべきものですが、医師の中にはそのことを知らない人達が大勢います。
診察時間が長いのに、首をかしげながら診察室を後にする患者さんが多い医師は説明スキルに問題がある場合があります。(患者さんによっては、治ると思い込んで受診し、治らないと言われたため納得できない場合もあります)
相手の知識量が多ければ手短に説明し、相手の知識量が少なければ小学生に説明するような初歩的なことから説明するべきです。このことを理解していない医師が、先に医師になったというだけで先輩風を吹かしているのですから、若い先生が説明上手になることは困難です。今のところ医師が説明上手になる唯一のチャンスは自分で説明が下手かもしれないと疑うことです。そしてどのようにしたら出来るだけ早く相手に理解してもらえるようになるか工夫することです。
どんな仕事でも共通していますが、説明スキルが高い方が有利です。何故なら短時間で必要な情報を伝えることが出来るからです。説明スキルが低ければ、同じ情報を伝えることにより多くの時間がかかってしまいます。
医師によっては患者さんを怒ることで説明を切り上げたりしますが、説明スキルが低いことを隠すための本能のようなものなのかもしれません。
怒る医師を何人も見てきましたが、総じて説明スキルが低かったように思います。恐らく偶然ではないように私は思います。(参考:患者さんを怒る医師の心理を考える)
説明スキルに問題があっても自覚できない理由
理由は一言で言えば、医師としか日頃会話をしないからです。
医師とだけ会話をしていると、専門用語は当たり前のことです。
専門用語を知らない人と話す機会がないので、専門用語を知らない人がいることが理解できないのです。そして専門用語を知らない人が想像できないのです。勘違いしている医者になると、専門用語を知らないことを自分より劣っていると見下す人までいるのは困ったものです。それだけ狭い人間関係に収支していることを表しています。
医学知識の無い人と話す機会がないために陥る罠です。
ちょうど方言ばかり使って同じ地方の人と話をしていると、方言が標準語だと錯覚していることに似ていると思います。
説明スキルの簡単なトレーニング法
説明スキルの向上は大切なことなので項を改めて書いても良いかもしれませんが、説明スキルの簡単なトレーニング法を記載しておきます。自分が説明スキルが低いかもしれないと少しでも思われた方は一度考えてみられると良いと思います。
相手がどれだけの知識がわからないことが前提で話が出来るようになるべきです。
全く医学知識のない人にも理解出来るように説明するには、小学生か中学生に説明するレベルで話をできるように準備しておくと良いと思います。
相手を小学生や中学生扱いするという訳ではなく、全く医学の知識のない素人の方にも説明できるようにするという意味合いです。話をしてみて相手の基礎知識が備わっていれば、その分だけ説明の時間を短縮できるので、早く情報伝達をすることができます。
参考